老後資金は、とにかく預金で持っておけば安心だと考える人は少なくありません。ただ、物価が上がる局面では、金額が減っていなくてもお金の実質的な価値は下がっていきます。老後資金を守るには、「減らさないこと」と「目減りさせないこと」を分けて考える必要があります。

預金の残高が同じでも、買えるものは減る

預金の最大の強みは、元本の変動が小さく、必要なときに使いやすいことです。一方で、弱みは物価上昇に対して強くないことです。総務省統計局は毎月、消費者物価指数を公表しており、物価が継続的に変動していることが確認できます。日本銀行の解説でも、物価が上がると「これまでと同じ値段で買えるものが減って、持っているお金の価値が減ってしまう」と説明されています。

つまり、預金残高がそのままでも、生活費が上がれば同じ金額でまかなえる期間は短くなります。老後資金対策で見落としやすいのは、この「見えにくい目減り」です。

老後ほど物価上昇の影響を受けやすい理由

現役時代は、昇給や働き方の変更で収入を増やせる余地があります。しかし老後は、公的年金が生活の土台になるため、物価が上がったからといってすぐ収入を増やせるとは限りません。医療費や介護関連の負担、住まいの修繕費など、年齢とともに気になりやすい支出もあります。

そのため、老後資金をすべて預金に置いていると、「減っていないのに足りなくなる」感覚を持ちやすくなります。預金は大切ですが、老後の全資産を預金だけで持つことには別のリスクがあると考えたほうが現実的です。

金融庁も「預貯金だけでは増えにくい」と整理している

金融庁の金融経済教育教材では、まず家計管理と貯蓄が大切だとしたうえで、超低金利のもとでは預貯金ではお金は増えにくく、物価上昇があると貯蓄の価値が目減りする可能性があると説明しています。つまり、預金は必要だが、それだけで老後の備えを完結させる考え方には限界があるということです。

預金は必要、でも全部を預金にする必要はない

ここで大事なのは、預金を否定することではありません。生活費の予備、急な医療費、当面の取り崩し資金など、預金で持っておくべきお金は確実にあります。ただし、十年以上使わない資金まで全部を預金に置くかどうかは、別の視点で考える余地があります。

老後資金は役割ごとに置き場を分けたい

老後資金を考えるときは、「すぐ使うお金」「数年以内に使うお金」「まだ先のお金」に分けると整理しやすくなります。すぐ使う資金は預金中心、数年以内の資金は安全性を重視した商品、まだ先のお金は物価上昇も意識した置き方を考える、という発想です。

たとえば、比較的性格が分かりやすい選択肢として個人向け国債があります。財務省は、個人向け国債として「変動10年」「固定5年」「固定3年」の3タイプを案内しています。大きく増やす商品ではありませんが、預金だけに偏らない中間的な置き場として検討しやすい選択肢です。

NISAを使った長期運用は「目減り対策」の一つになる

預金だけで老後資金を守りにくい理由の一つは、物価が上がっても預金の増え方が追いつきにくいことです。そのため、すぐに使わない資金の一部については、NISAを活用した長期・積立・分散投資を考える余地があります。金融庁も、資産形成の基本としてこの考え方を示しています。

増やすことより、実質価値を守る発想

老後資金対策で投資を考えると、「大きく増やす」話になりがちです。しかし本来は、物価上昇で資産の実質価値が削られすぎないようにするという視点も重要です。預金だけでは安心できないからといって、すべてを値動きの大きい商品に回す必要はありません。預金、国債、投資信託などを役割ごとに分ける考え方のほうが、老後資金には合いやすくなります。

預金だけの備えが向く人、見直したい人

預金中心の備えが向くのは、近いうちに大きな出費を予定している人や、値動きによる心理的な負担をほとんど受け入れられない人です。一方で、老後までまだ年数があり、すぐには使わない資金があり、物価上昇による目減りも気になる人は、預金だけに偏らない形を考える余地があります。

大切なのは、預金か投資かの二択で考えないことです。生活費を守るための預金は必要ですし、そのうえで長く持てる資金の一部をどう置くかを考えるほうが無理がありません。

老後資金は「金額」だけでなく「価値」で見る

老後資金対策では、通帳の残高だけを見ていると安心しやすくなります。しかし本当に大切なのは、そのお金で将来どれだけの生活を支えられるかです。物価が上がる時代には、預金だけで守ることにもリスクがあります。すぐ使うお金は預金で確保しつつ、長く使わない資金は別の置き場も含めて考えるほうが、老後資金の実質的な目減りを抑えやすくなります。

老後資金は、減らさないことだけでなく、価値を保つ視点も必要です。なお、投資には元本割れの可能性があるため、生活費や緊急時資金まで無理に運用へ回さないことが大切です。

出典:総務省統計局「消費者物価指数(CPI)」

出典:金融庁「『貯める・増やす』~資産形成」

出典:財務省「知る|個人向け国債」