長年働いて受け取った退職金は、できるだけ減らさずに残しておきたいと考える方も多いでしょう。まとまった資金を銀行預金に置いておけば、株価の下落を心配する必要がなく、必要なときに引き出しやすいという安心感があります。

一方で、退職金の全額を預金だけで管理することが、必ずしも老後資金を守る最善の方法になるとは限りません。物価が上昇すると、預金残高が同じでも買える商品やサービスが少なくなる可能性があるためです。

そこで選択肢になるのが、当面使わない資金の一部を株式や投資信託などの成長資産へ振り分ける方法です。なかでも近年は、生成AIやデータセンターの拡大を背景に、話題の半導体株へ関心を持つ人が増えています。ただし、退職金を半導体株へ一括投資することも、預金だけに置く場合とは異なる大きなリスクを伴います。

退職金を全額貯金した男性に起こり得る後悔

まずは、退職金をすべて預金に置いた場合に起こり得る状況を、想定上のケースとして見てみましょう。以下は特定の人物の実話ではなく、老後資金の管理で考えられる問題を分かりやすく示すためのフィクションです。

「減らさないこと」を最優先にしたAさん

65歳で退職したAさんは、受け取った退職金を全額、普通預金と定期預金に預けました。現役時代に株式投資をした経験がなく、「投資で損をするくらいなら、預金として残したほうが安心だ」と考えたためです。

退職直後は、通帳にまとまった残高があることで安心していました。しかし数年が経つと、食料品や日用品、電気代、外食費などの負担が以前より重く感じられるようになります。住宅設備の修理や家電の買い替えも重なり、想定していたより速いペースで預金を取り崩すことになりました。

Aさんの預金が突然失われたわけではありません。それでも物価が上がり、同じ金額で維持できる生活の内容が変わりました。後になってAさんは、「全額を投資すればよかった」のではなく、「生活費と長期間使わないお金を分ければよかった」と感じました。

後悔の原因は貯金ではなく資産配分

このケースで注意したいのは、預金を選んだこと自体が間違いだったわけではない点です。老後は給与収入が減るため、すぐに使える預金は欠かせません。医療費や介護費、住宅修繕費など、発生時期を正確に予測しにくい支出にも備える必要があります。

問題になり得るのは、用途や使用時期が異なる資金をすべて同じ預金で管理したことです。数年以内に使うお金と、10年以上使わないお金では、適した置き場所が異なります。